愛子天皇は実現するか「緊急特集 天皇と日本人」 本郷恵子×野田佳彦×古川貞二郎
文藝春秋digital
2021年12月11日 08:00
このままでは皇統が絶えてしまう! 皇室の一大危機を大激論。/本郷恵子(東京大学史料編纂所教授)×野田佳彦(元内閣総理大臣)×古川貞二郎(元官房副長官)
目次
(1)皇統の危機――なぜ政治は放置するのか
考え抜かれた有識者会議の報告書
(2)皇室は日本の宝――続いたのには訳がある
(3)守るべきは万世一系か、それとも天皇制そのものか
「旧宮家の皇籍復帰」案も同じ壁に突き当たる
(4)愛子天皇が実現する日
(1)皇統の危機――なぜ政治は放置するのか
野田 自民党総裁選では、候補者4名のうち3名が女系天皇に否定的で、「皇位は男系男子で維持されるべき」と主張をしたことが話題になりました。しかし、皇統の危機はまさに男系男子による継承に根源的な原因があります。それ以外の選択肢も含めて、今こそ広く議論すべきなのに、この問題については無関心な政治家が多く、真剣な議論がされていません。「このままでは日本から皇室がなくなってしまう」とすごく危機感を抱いています。
本郷 遅まきながら、今年3月から政府は有識者会議(「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議)を立ち上げ、安定的な皇位継承のあり方について検討を始めました。私自身も4月に中世史の専門家として、ヒアリングの場に呼ばれ、「内親王と女王にも皇位継承資格を認めるのが自然」という意見を申し上げました。議事録を読むと、作家の綿矢りささんのような若い方が「男系の伝統を重んじてほしい」と意見を出されていたりして、意外に世代間で意見が分かれているわけでもないんだな、と感じました。
ただ、議論は遅々として進んでいません。7月以降は会議自体が中断され、4カ月経って、ようやく11月に再開されたばかりです。
古川 皇位の継承者や皇族の方々の減少は、天皇制が存続するかどうかにかかわる重大な問題です。現在、皇室には皇位継承権のある皇族は、秋篠宮さま、悠仁さま、常陸宮さまのお三方しかいないわけで、その中でも次世代の候補となると悠仁さまだけになる。眞子さまも今回のご結婚により民間人になられ、女性皇族の数も減少の一途を辿っています。
私は、2005年に危機感を抱いた当時の小泉首相のもとで立ち上げられた「皇室典範に関する有識者会議」のメンバーでした。私どもに対する小泉首相の諮問は、現行憲法のもとで皇位の安定継承を図るにはどうすればいいかというものでした。会議では、実に様々な議論を行いました。当時はメンバー10人全員の一致で、「女性女系天皇にまで皇位継承資格を拡大する」という結論を出しています。あれから16年が経つのに、いまだに解決を見ていない。「慎重に検討を」というばかりで、実態は先送りにされている感があります。「慎重な検討」と「先送り」はまったく違います。
天皇制は日本の「国の根幹」とも言える制度で、その制度が細い糸で保たれている状態は、明らかに健全ではない。皇室典範に定められた現行制度を改正し揺るぎない状態にするためにも、早急に手を打つべき時期に来ていると思います。
本郷 現行の皇室典範(昭和22年施行、以下、昭和典範)では「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」とされています。まだ悠仁さまがご結婚されるまでに10年以上はある、悠仁さまのところに男の子がお生まれになれば問題ない、と悠長に構えている人もいますが、一方でその時が来てから議論するのでは遅いという声もあがっています。
古川 私は、遅いと思いますね。皇族方は国政に関与できないことになっています。だから政治家や政府関係者といった国政の衝しょうに当たる人間が、どんなに困難なことがあっても責任をもって早急に制度を改正し、皇位の安定継承を図る必要があります。
愛子さま
愛子さま
考え抜かれた有識者会議の報告書
野田 政府の姿勢は怠慢と言わざるをえないものですね。そもそも現在の有識者会議は、2017年に天皇陛下退位の特例法を制定した際の附帯決議にもとづいて立ち上がりました。附帯決議には「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」を特例法の施行後、速やかに検討するよう記載されています。
「速やかに」と書かれているのに、特例法の施行日である19年の4月30日から、今年3月の有識者会議の設置まで、実に2年もの時間が経っている。会議自体を起こすのが遅くて、いまだに国会には何の報告もないわけです。「何をやっているのか!」と言いたい。古川さんも委員でいらした小泉政権下の有識者会議を見習えと言いたくなります。
古川 当時の資料を読むと、主な会議だけでも17回に及び、05年の11月に報告書を提出しています。
本郷 私も読みましたが、現在と過去の家族制度の違いに言及していたり、男女に等しく皇位継承権を認めた場合は、皇室の規模はどうなるのかを想定したり、非常に考え抜かれている印象でした。今後もこの報告書をもとに議論を進めなければいけない種類のものですね。
古川 報告書には、明治の皇室典範(明治22年施行、以下、明治典範)で認められていた側室制度がなく、昨今は、著しい少子化、晩婚化にある中で、古代から続いてきた皇位の安定的継承は極めて困難であり、「継承の資格者を女性や女系の皇族に拡大すべきである」と明記しています。
野田 報告書が出された翌年1月の国会の施政方針演説では、小泉首相が「皇室典範改正案を提出する」と明言していました。そして、その後、3週間足らずというタイミングで、NHKによる紀子さまご懐妊の報道が出され、同年9月に悠仁さまがご誕生されたわけですね。
古川 ええ。静かな環境の中でご誕生を迎えたい、ということで、皇室典範改正案も国会への提出を見送ったという経緯があります。当時、私は、悠仁さまがお生まれになった愛育病院の理事長をしておりました。実はご退院の際に、私は秋篠宮同妃両殿下と赤ん坊の悠仁さまを、病院の玄関まで先導する役を務めたんです。4階から1階まで降りるエレベーターの中で、皇位の継承者である愛らしい悠仁さまのお顔を見て、深く感動したことを今も鮮明に覚えています。
野田 その後、小泉政権から安倍政権に代わり、有識者会議の議論も白紙に戻された。
古川 いえ、悠仁さまのご誕生で議論が白紙に戻ったというのは誤解があるんです。報告書の結びを読めば分かりますが、「今後、皇室に男子がご誕生になることも含め、様々な状況を考慮」と明記し、仮に皇室に男子がご誕生されても、皇室の危機に変わりはないことを明らかにしています。これはもちろん紀子さまご懐妊の報道を知る前に書かれたものですが、改革は行うべきだと主張しているんですね。要はこの報告書を受けた小泉首相が国会で表明した方針が、安倍内閣(第1次)に引き継がれなかったということです。
本郷 野田さんは、首相をお務めだった2012年に「皇室制度に関する有識者ヒアリング」を立ち上げ、女性宮家の創設について議論されましたよね。
野田 ええ、当時の宮内庁長官の羽毛田(信吾)さんから、「皇族が減少していくことで、天皇や特定の皇族に公務が集中している」という危機感を伝えられたことがきっかけでした。当時は、これから結婚適齢期を迎える女性皇族が7方いました。女性皇族の減少に歯止めをかけるために女性宮家創設の議論を急いだという背景があります。もちろん、私も「皇統の継承」のほうがより重要な問題であると認識していました。ただ、「ねじれ国会」のため参議院で法案が通りにくいという事情もあり、戦略的に議論を進める必要がありました。そこであえて女性・女系天皇の問題には入らずに、「女性宮家の創設」にだけ論点をしぼったんです。
ただ、現在の有識者会議を見ていると、私の時とは別の理由で本筋の議論に入らない印象を受けますね。論点をズラしながら、議論を遅らせているようにしか見えません。附帯決議に書かれた「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」の中でも、「皇位継承を確保するための諸課題」の方を真っ先に議論するべきなのに、「女性宮家の創設等」の方ばかり議論している。本題に入りたくないので時間稼ぎをしているとしか思えません。
古川 政府や国民の中にも「何とかなるだろう」「誰かが何とかするだろう」という他人任せの雰囲気があるのかもしれません。それが議論を遅らせているということはあると思います。政府が何とかしないと、何ともならないことを国民は認識する必要があります。
野田 私は、いまの自民党議員の皇室観には、長く政権の座にあった安倍(晋三)さんの考えが強く影響していると思います。つまり男系男子を維持し、皇統の存続の問題の解決案として旧宮家の復活を推す考えです。安倍さんに代表される男系男子維持を主張する守旧派の議員は自民党内に数多くいます。現在の有識者会議も、小泉政権下の有識者会議のように「女性・女系容認」という方向に議論が進まないように、いつまでも的をズラして結論を先送りしているのかもしれません。
(2)皇室は日本の宝――続いたのには訳がある
古川 私がなぜ皇統の継承について議論すべきと強く訴えるのかというと、それは、この優れた象徴天皇制を将来にわたって継承していくことが、日本にとってことのほか重要だと考えるからなのです。やはり天皇制は、日本という国の根幹であり宝である。これを絶やすようなことは、決してあってはならないと思うのです。
野田 私も首相在任中は、当時の天皇皇后(現上皇上皇后)両陛下のもとに内奏に伺うことが度々ありました。以前から心より尊敬しておりましたし、お会いする中でますますその想いが強くなりましたね。
忘れられないのは、ある時うかがった皇后陛下のお言葉です。当初は、被災地に足を運ぶことが「本当にいいのかな」と迷う面がおありだったとおっしゃるのです。復興にあたって「足手まといになるのではないか。皆さんのお仕事の邪魔になるのではないかと気になって仕方なかった」と。けれども、天皇陛下は確信をもって被災地の方々のもとに入っていかれる。その背中をご覧になる中でだんだんと、皇后陛下ご自身も被災地に赴くことの意味が分かってきたと。そしてこうおっしゃいました。「野田さんたちが被災地に行くと陳情を聞くでしょう」と。たしかに我々が行くと、「仮設住宅をこうして欲しい」とか、「避難所をここに用意してほしい」とか、そういう話になるわけですね。しかし被災地の方々も、両陛下に対してはそういう話は一切しない。「2歳の子どもが流されてとても悲しくて」とか、「消防団員だった夫は、水門を閉めに行って帰ってきません」とか、胸の中でぐっと堪えてきた辛い気持ちを吐露するのだそうです。
皇后陛下もそこで、象徴天皇の役割は国民に寄り添い、その気持ちに耳を傾けることだと思い至ったと。そのお話を伺ったとき、私自身、両陛下が国民の声を聴いて下さることが日本という国にとってどれだけ大切なのかがわかりました。
本郷 なるほど。
野田 日本という国を経営するうえでの要諦は3つあると思うんです。ひとつは「政と官の関係」。私たちの民主党政権は噛み合っていなかった。2つ目が「日米外交」。これは私も大事にしていた。そしてもうひとつ大事なのが「皇室を大切にすること」。政治や行政の行き届かないところに皇室はそっと寄り添う。この国は人を見捨てることはしない、絆はたしかにある、と気づかせてくれる存在なのではないか。両陛下の存在が震災後の秩序だった行動にもつながったと思います。
古川 私はいくつかの団体で3人の女性皇族の方のもとで働かせていただき、ご活動を間近で見てきました。本当に皆さま、熱心にご活動されていますが、驚くのはその感動を与えるお力なのです。例えば、会合にお出ましになった時にお声がけされるだけで、関係者はものすごく感激する、そして励みにする。それはもう想像以上の影響があります。皇室の伝統と重みによるものだと私は思います。
だから国民の側も、こぞって「皇族の方に団体の総裁になっていただきたい」などとお願いに上がるわけで、いわば甘えてしまうんですね。そうして皇族方の公務の負担が増えていくわけですが、そんな苦労は表情に一切出されない。報道などで海外ご公務のご活動などを拝見していても、皇族の方々は世界から本当に信頼されていると実感しますね。
野田 たしかに、私も首相在任中に皇室による国際交流の存在の大きさを実感しました。特に皇族、王族のご家族同士のご交流はネットワークがすごいです。上皇上皇后両陛下などは、王族の方々との古くからのお付き合いを全部覚えていらっしゃって、絆の深さを感じます。そうしたことが海外からの天皇制に対する信頼感を醸成することに繋がっていると思いますね。
本郷 ここで視点を変えて歴史学的な観点から皇室の意義を考えてみると、ちょっと不思議なことがあります。それは天皇制がなぜ長く続いてきたのか、学問的にはいまだに明確な答えが出せていないということなのです。
鎌倉幕府の成立以来、天皇を頂点とする公家政権は武家政権に完全に凌駕されてしまいました。ところが武士たちはいつでも天皇制を滅ぼすことができたのに、そうせずにあたかも「おのずからあるもの」として受け容れてきました。そして天皇を頂点とする叙位叙勲制度、儀礼や行事の体系には敬意を払い、形式的にせよ従う姿勢を取り続けてきた。これは現代にも繋がってきます。「権威と権力の分離」とよく指摘されますが、世界的にみると、それだけでは説明しきれず史学的には大きなナゾなのです。
武家が支配していた中世において、天皇の存在が意識されるとすれば、例えば、伊勢神宮が遷宮するときに「一国平均役」といって広く薄く徴税される時などです。あるいは災害があった時に、天皇の使者である「奉幣使」が伊勢神宮にお参りに行く。そういったことで天皇はありがたいことをやってくださっている、という意識が全国に広がっていったとは言えると思います。
古川 その現代版を目にしたことがあります。私は、伊勢神宮崇敬会の総代を仰せつかっている一人なのですが、上皇陛下がまだ天皇だった頃、御代替わりの直前に皇后陛下とご一緒に伊勢神宮に最後の参拝をなさったんです。我々も参列しましたが、ホテルからバスで移動する際に、沿道にものすごい数の人が並んでいて、皆さんが両陛下を心から歓迎している様子がヒシヒシと伝わって来ました。今の天皇皇后両陛下のときも同じでした。決して作られた歓迎ではないんです。ああ、両陛下は国民の心の拠り所なんだな、と。その場面を見て本当に感動したことを覚えています。
本郷 日本は異民族によって支配されたことがありませんから、基本的な価値観は一貫している。それを体現してきたのが天皇だったのではないかというのが私の推測です。だから武家政権も容易に手出しできなかった。日本的な価値観を体現する方々だからこそ、国民の尊崇を集め、今日まで続いてきたのだと思います。
古川 本郷先生のおっしゃることはよく分かります。
本郷 そして尊敬を集める生き方や凄味は、どこから来るのかと考えた時に、やはり「世襲」に行き当たる。つまり、生まれた時から天皇になることが定められていて、その覚悟を持って普通の人とは異なる人生を真剣に生きていかざるをえない。上皇陛下は学習院中等科の頃に英語の授業で、「あなたは将来、何になりたいですか」と聞かれて、「私は天皇になります」と即答されたというエピソードがありましたが、そういう常人には想像が及ばぬ覚悟が天皇の発する凄味に繋がり、国民からの敬意につながるのだと思います。
ただ、現代の日本では、戦前のように天皇崇拝が教えられるわけではなく、ピンとこない人も多いという現実もあります。私は、この現代においても、「特別なものを背負った一族」がこの国にいて、そういう方々に大きなご負担をおかけしていることは国民一人ひとりが考えるべきだろうと思いますね。
古川 最近はよくメディアなどで、悠仁さまの教育が話題になります。かつては小泉信三さんや浜尾実さんのような教養もあり、人格も兼ね備えた人物が皇太子の教育係を務めたが、今はそういう方が周囲に見当たらないと。ただ、私は特定の人を教育係につけるという考えには疑問があります。一対一だと人格が移る恐れもありますから。むしろ優れた何人かの方に、様々な立場から教育していただくのがいい。例えば、宮内庁には「参与」という陛下の相談役もおられるし、さらには各方面に優れた人格者がいらっしゃる。こういう方に様々なお話をしていただくのがいいと思いますね。
野田 上皇陛下に直接ご指導いただくのが一番ですよ。葛藤を抱えながらもご苦労をされて新しい天皇像を定着させたご本人ですから。お話もとてもお上手ですしね。私は総理を退任後、お食事にお招きいただいたことがあるのですが、そのときはニホンミツバチが天敵のスズメバチを集団で翅をふるわせ、熱で退治するという面白いお話を伺いました。ご活動の中で培ってこられた哲学こそが最高の教育材料になるはずです。その意味でも上皇陛下がお元気なうちに、皇位継承の問題を整備しておく必要がありますね。
(3)守るべきは万世一系か、それとも天皇制そのものか
野田 いまなぜ皇位継承問題が起きているかと言えば、それは男系男子へのこだわりからです。皇位が「男系男子」で継承されてきたことは事実にしても、そこにこだわる風潮は、明治典範で、「男系の男子に継承する」との文言が入って以来、強まったもので、それほど古いものではないと私はみています。
古川 ええ、そうなんです。当時の首相で草案の起草にかかわった伊藤博文自身が、皇位を男系男子に限定してしまうと、存続の危機に陥ると考えていました。それで女性・女系天皇の可能性も模索して、いくつも案を実際に作っている。ただ、明治典範が決まる直前に伊藤の部下だった井上毅が女性・女系天皇に反対する「謹具意見」を提出した。それを受けて最終的には男系男子に限定されることが決まったという経緯があります。
小泉政権下の有識者会議では、こういった明治典範成立の経緯もよく調べました。報告書にも書いてありますが、明治22年当時から「歴史上も女性天皇の例がある」「男統が途絶えた場合、女統を可能としないと皇統が途絶えるおそれがある」など、まさに今日の議論と似たようなことが話し合われていたんですね。
野田 ただ、当時は側室制度があり、非嫡出系の庶子であっても、男子であれば皇位継承を認められていました。だからこそ、男系男子の主張も現実的なものとして受け入れられたわけですよね。とはいえ、今の時代の国民感覚に照らすと、到底、側室制度というのは認められません。すでに昭和天皇からして、2男5女のお子様がいましたが最初の4人は女の子で、男の子は中々生まれなかった。周囲から側室をすすめる声がありながら、それでも側室をとらないで来たわけです。
古川 明治典範を昭和典範に改正する際には、そういった風潮を受けて非嫡出子は認めないことにしています。そこは明治典範と明確に違う点なのです。ちなみに江戸時代以降、約400年の間、19方の天皇のうち4方のみが嫡出、あとの15方は側室から生まれた非嫡出です。いわば側室制度は、男系男子維持の仕組みと言えるかもしれませんね。実は、この昭和典範の議論の際にも、女性・女系天皇の可能性を議論しています。ただ、この時は、男性の皇位継承資格者が6方もいた。余裕があったんですね。だから、そこまで深刻に考えずに、議論が打ち掛けのままで終ってしまった。それが今日の危機を招いているとも言えます。
「旧宮家の皇籍復帰」案も同じ壁に突き当たる
本郷 お二人のお話を伺っていると、小泉政権の有識者会議の結論のように「女性・女系天皇の容認」が現実的な選択肢として浮かび上がってきます。女性・女系を否定して、有効な対応策が取れずに皇統が途絶えてしまったら元も子もない。本当に守りたいのは、「男系男子で続いてきた万世一系」なのか、それとも「天皇制それ自体」なのか、という議論に行き着くと思います。
現状で男系男子を守り続けた場合、さまざまな困難が予想されます。悠仁さまに嫁いだ妃殿下は、必ず男子を生まなければなりません。皇統の存続がかかるわけですから、その精神的負担たるや想像を絶するものだと思うのです。そうなると民間からのお妃選びは大変。今回の眞子さまと小室さんのご結婚騒動を見てもわかるとおり、皇族に適任なお相手を見つけることはとても難しい。
野田 果たして、自分の娘を嫁がせようとする親御さんがいるのか。自分の家庭に置き換えて考えてみればわかることですが、娘を送り出す勇気は出てこないと思うんです。男系男子維持の主張を突き詰めていくと、最後は「将来、悠仁さまに男子がお生まれになるだろう」とお相手もまだ決まっていないのに、根拠のない偶然に頼るしかないところがある。楽観論というか、現実的には非常に厳しいですよね。
古川 ええ。しかも女性天皇を認めるだけではダメなんですね。女性天皇からお生まれになった方は男性でも女系。だから女系天皇を認めないのであれば、それは皇統を1代延ばすだけに終わってしまうからです。やはり女性天皇と女系天皇の両方を認めないと、皇位の安定継承の問題の根本的解決にはならないんです。そこで2005年の有識者会議でも色々と議論して、女系にまで拡大すべきだという結論に至りました。
本郷 なるほど。ただ、過去の歴史上、女性天皇は存在しても、女系天皇はいなかった。そのことを理由に男系男子を主張する方々は、女系天皇容認にはより一層否定的な見解をお持ちですよね。
野田 たしかにそうですね。私が有識者ヒアリングをした際にも、女性宮家の創設は女系天皇にも繋がるということで男系男子論者から猛烈な批判が来ました。毎日毎日、抗議の文面が事務所に届きましたね。
ただ、奈良時代の元正天皇は、父方の祖父が天武天皇で、母親が元明天皇という女性天皇なのですね。そのため歴史上、唯一の女系天皇と主張する人がいます。これに対して男系論者は、父が草壁皇子なので男系女子だと主張する。裏を返せば、「万世一系で126代ずっと男系男子で継承されてきた」という主張も解釈を差し挟む余地があるということなのです。
古川 男系論者は、女性・女系容認の代わりに「旧宮家の皇籍復帰」の案を主張することが多いですね。旧宮家の子孫にあたる男性を皇室に迎え入れ、皇位を継承してもらうという主張です。しかし、小泉首相の下の典範会議がこの案をとらなかった最大の理由は、直系男子に限るかぎり、この案も早晩、いま直面している継承者減少の問題と同じ壁に突き当たることになるとわかったからです。つまり、小泉首相が求める皇位の安定継承策にならないわけです。この案を支持する方は、このあたりをどうお考えでしょうね。
本郷 よく分かります。そもそも、昭和典範の成立に従って離脱したわけで、それから実に70年以上もの月日を民間人として過ごされてきたとあっては、国民にとっても遠い存在になっているのではないかと。
野田 「国民にとって遠い存在」という考えは私も同感です。国民は皇族の方が生れた時から、皇室というファミリーの一員としてその成長を見届け、共感したり理解したりする中で尊敬の念を醸成していきますよね。旧皇族の方が復帰したとしても、果たして国民は、他の皇族と同様に受け入れられるのか疑問に思います。
古川 私はつねづね、制度というものはシンプルかつ明瞭でなくてはいけないと考えてきました。小泉政権下の有識者会議では、女性・女系天皇を認めるわけですから、女性皇族が民間人の男性とご結婚された場合は、その男性も皇族になる。また女性皇族の身分についても、「婚姻後も皇室にとどまり、その配偶者も子孫も皇族の身分を有する必要がある」としていました。
本郷 徹底していたんですね。
古川 一つの家庭の中で皇族がいて、その配偶者は民間人とすると混乱するのは目に見えています。複雑な制度にしたら国民にも伝わらない。ましてや皇族方ご本人たちも納得できないと思うのです。
本郷 ただ、現在の有識者会議のヒアリングでは、「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することについてはどのように考えるか。その場合、配偶者や生まれてくる子を皇族とすることについてはどのように考えるか」という質問項目がありました。今の古川先生のお話を伺うと、小泉政権下の有識者会議の頃から、かなり議論が後退した印象を受けるというのが正直なところですね。
(4)愛子天皇が実現する日
野田 最近は国民の間でも「愛子天皇待望論」が話題になっていますが、私はそれも選択肢だと思います。
本郷 4月の有識者会議のヒアリングの場で、「内親王・女王に皇位継承資格を認めることについてはどのように考えるか。その場合、皇位継承順位についてはどのように考えるか」との質問項目があったんです。愛子さまの皇位継承も想定に入れた質問だと思いますが、「資格の拡大には一定の根拠があり、自然な流れである」と答えました。
過去の歴史を振り返っても、10代8方の女性天皇が存在していましたし、一方で例えば、大臣や大納言の職には、女性が就くことは決してあり得ませんでした。そう考えると、天皇というのは他の職とは違って、公的な役割であると同時に、皇族の血統を備えた身体や生理そのものとして捉えるべきであって、そこには女性を排除する論理は入ってこないと考えられるからです。
野田 早急に決めないといけませんね。愛子さまは成人されたのに、「将来、天皇になるのか」「結婚したら民間人になるのか」と全く異なる2つの進路がまだ開かれている状況です。あまりにお辛いと思います。
古川 他の女性皇族の方々も、国の方向を早急に決めてほしいはずですよね。現行制度であれば、結婚後は民間人になるわけですが、女性天皇や女性宮家への道が開かれれば、皇室に留まり続けることになるわけで、心構えも覚悟も全く違ってくるはずです。最も大事なことは、皇位の安定を図り、今の天皇制を将来、幾代にもわたって継承していくことです。国のそうした方向が定まったら女性皇族のあり方ももっと明確になっていくものと思います。すでに女性皇族の方々は結婚適齢期に入られているので、その意味でも議論を急ぐべきだと思います。
本郷 一部マスコミの調査では、国民の8割が「愛子天皇」を支持するという結果も出ていますよね。
野田 やはり国民も合理的な選択肢だと考えているのではないでしょうか。もし、女性天皇を認めて長子優先ということになれば、男の子を生まなければというプレッシャーからも解放されます。
愛子さまが天皇になるとなれば、当然、天皇としての心構えが必要になってきます。先ほども申し上げたように、それは象徴天皇制を切り開いてこられた上皇上皇后陛下に直接、教育していただくのが最もいい。上皇ご夫妻がお元気なうちに決めるべきですね。
文藝春秋2022年1月号|愛子天皇は実現するか「緊急特集 天皇と日本人」
最後の野田の〆がこんな風では、アキヒト&ミテコが生きているうちは、ダメということではないか、と私は思いますね。
>愛子さまが天皇になるとなれば、当然、天皇としての心構えが必要になってきます。先ほども申し上げたように、それは象徴天皇制を切り開いてこられた上皇上皇后陛下に直接、教育していただくのが最もいい。上皇ご夫妻がお元気なうちに決めるべきですね。
結局は高輪ジジババの上げ記事でしかないと言うことです。
ただ、文藝春秋が愛子さま一択(ヒソヒソありきは出てこない)の記事を載せたのは、さすがに今回の秋家の体たらく(=秋家の子女教育のデタラメさ)が、多くの国民に察知されてしまったという現実を見たのでしょう。
ずいぶん「愛子天皇」が遠回りしてしまったのは、ヒソヒソを作らせた平成の天皇皇后の意向が強く働いてブレーキをかけられていたからと思っています。
つまり、あのジジババが生きている間はダメだということですね。
野田たちは、平成の天皇皇后をずいぶんかっているようですが、政治的発言をバンバンやらかして、それも自分たちの評判をあげることのみに使った事実は差し引いて考えるべきでしょう。
象徴天皇制を「切り開いた」と本当に思っているなら、それは怖いことです。
海外の貧しい国に対し、ODAと引き換えに海外旅行へ行く、お気に入りの次男家にも、公金で贅沢をする旨味を教えた程度にしか、平成の天皇制は機能していませんでした。
だから、「日王」などと呼ばれ「歴史的にも日本が韓国を植民地化した事実はないのに(当時は朝鮮は日本国だった)日王は心から謝罪せよ」などと要求されたり、国連の制裁が科されている真っ只中に、ウキウキと中国へ出かけて最大級のもてなしを受け、「日本は誤った認識を中国に与えた」と他の加盟国から批判されるはめになるのです。
ミテコを嫁にもらった時から「皇室外交」に独自にこだわってきたアキヒトさんの頭の悪さが、さまざま弊害となって出てきたのが「平成」だと思っています。
外務省職員の小和田雅子さんを未来の皇后に、と選んだのは、皇室外交というものは、すべからく「国の外交」と切っても切れない関係である、また、皇室も国民のためにそうであるべきだと今上陛下が考えておられるからだと思います。
今回のマコムロ騒動にしても、元皇族であるならば、他国に余計な負担や責任を押しつけるべきではない。
調子の良い時はかまわないですが、何かあった時には必然的にその国の責任というものが大なり小なり生じるものです。
皇族というのは、国の内外を問わず特権を得ることがたやすいかわりに、多大な責任を押しつける存在ですから、少なくとも「何かあったとき」のことを考えて行動すべきだと私は思います。
そして、皇族は、それを知っていなくてはいけません。
いい大人になって「ガキ」丸出しではいけないのです。